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EMEの抽出原理

1 導電性バイアルに試料溶液(ドナー溶液)とアクセプター溶液を注入

別々の導電性バイアルに試料溶液(ドナー溶液)とアクセプター溶液を注入します。ドナー溶液を注入する導電性バイアルをドナーバイアル、アクセプター溶液を注入するバイアルをアクセプターバイアルと呼びます。ターゲット化合物が溶液中でイオン化していることが必須となるので、ターゲット化合物のタイプ(塩基性化合物・酸性化合物・双性化合物)とpKa値が、溶液のpH調整に重要となってきます。

2 SLMの構築

アクセプターバイアルに高分子膜を装填したユニオンを付け、ターゲット化合物を抽出するのに適切な有機溶媒又は最適化されたSLM構築溶液を膜に滴下し、SLMを構築する。

*SLMとは、Supported Liquid Membraneの略。高分子膜の細孔に有機溶媒が浸潤し、高分子繊維に支持・固定化され、一体化した複合膜のこと。ターゲット物質のタイプ(塩基性化合物・酸性化合物・双性化合物)、化学的特性(構造式、logP)により最適化することで、抽出効率が改善することが多数報告されています。

3 アクセプターバイアルとドナーバイアルを接続

SLMを構築後、アクセプターバイアルとドナーバイアルを接続します。ドナー溶液とアクセプター溶液は、ユニオン内のSLMによって区切られます。このツインバイアルユニットをEME装置に装填します。ETN-12 EMEには、12セットのツインバイアルユニットが装填できますので、一度に12検体の化合物抽出が可能となります。

4 EMEによる抽出

電圧を印加すると電荷を帯びたターゲットイオン化合物は、電気的移動によりドナー溶液からSLMを介してアクセプター溶液へ抽出されます。非イオン性化合物や逆電荷のイオン化合物は、ドナー溶液中に保持されます。SLMが有機溶媒で疎水性のため親水性の高い塩は、SLMを通過しにくくなっており、塩もドナー溶液中に保持されます。このように、EMEでは電圧の方向、溶液のpH調整、SLMの最適化によって、高度な選択的抽出が可能となります。

5 マトリックスフリーの精製された抽出物

EMEによる抽出で純粋なサンプル抽出液が得られます。EMEは、最適化された条件下で、マトリクス効果を低減した非常にクリーンな抽出液、すなわちタンパク質とリン脂質を完全に除去した抽出液を提供し、MS装置のダウンタイムを短縮します。抽出物は、MSの前に非常に短いLCメソッドを使用して、LC-MS装置に直接注入することができます。特に、ETN-12 EMEのバイアルシステムでは、サンプルクリーンアップから分析前の溶液準備まで、1度も容器を入れ替えることなく、1ステップで完結できることが、非常に特筆すべき点です。

実際に、EMEを使った血液サンプルからの化合物抽出が多数報告されていますが、LC-MSによる分析では、EMEで抽出された抽出物は、マトリックスフリーということが繰り返し証明されています。

EMEの化合物抽出 ショートムービー

EMEのパーラメーター

EMEのパーラメーターは、下記になります。最適化することで、抽出効率が向上します。

EME前に検討及び決定するパーラメーター

  • EMEで抽出できるかどうかの判断基準→分析対象物がイオン化するかどうか
  • 電圧の印加方向→分析対象物のタイプ(塩基性化合物・酸性化合物・双性化合物)
  • ドナー溶液及びアクセプター溶液のpH調整→分析対象物のpKa値               溶液のpH調整は、各化合物のpKa値の2ユニット上下に調整するのが目安とされています。例えば、ターゲット化合物が塩基性化合物で、pKa値が「4」の場合、pHは強酸の「2」になるようにバッファー調整します。逆に、ターゲット化合物が酸性化合物で、pKa値が「6」の場合、pHはアルカリ性の「8」になるようにバッファー調整します。双性イオンの場合は、過去の研究報告では、酸性にすることが有効であった事例があります。下記のhow-to-eme.comから抽出条件を検索できます。
  • SLMの最適化→分析対象物のタイプ(塩基性化合物・酸性化合物・双性化合物)、分析対象物の構造式・pKa値・logP値                                                SLMを構築するのに使用する有機溶媒の容量は、8~10マイクロリットルです。膜の幅は、約10mm、厚さは0.1~0.3mmです。膜に浸潤させる有機溶媒は、抽出ターゲットによって使い分けられます。抽出ターゲットが、塩基性分析物の場合は2-ニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE)、酸性分析物の場合は、高級アルコール(ヘキサノール、ヘプタノール)が使われることが多いです。イオンキャリアの添加をすることもあります。

装置で設定するパーラメーター

  • 電圧の強さ
  • 電圧の印加方向
  • EMEのランニング時間
  • 攪拌の強度設定                                    EMEランニング中にSLM膜表面に境界層が形成され、イオンの膜輸送が遅くなる為、振動機構が搭載されています。
  • EMEランニング中の電流値                                EMEでは、イオンの移動により電流が発生します。その電流値は、印加電圧、pH、イオンキャリアの添加、種々のSLM構築のための有機溶媒、イオンの移動量の影響を受けます。                                         EME抽出において、ランニング中に発生する電流値はEMEが正常に行われたかどうかの判断基準になります。過去の多数の研究報告及び実験データから電流値が50μA以下であれば、システム内で電気分解や気泡が発生せず正常にEMEが行われていることが証明されています。尚、ETN-12 EMEには、電流値モニタリング機能が搭載されており、EMEランニング中の電流値がデータとして記録されます。電流が高すぎる場合、水の電気分解→ガス発生→pH変化が起こる可能性があります。したがって、抽出を成功させる為には電流を低マイクロアンペア領域に維持する必要があります。

EMEパーラーメーター設定

下記のサイトの検索BOXに化合物名を英語で入力し、検索するとEMEでその化合物を抽出できるか、できないかを判定できます。検索窓に化合物名を英語で入力して「Enter」を押してください。EMEで抽出可能な場合のみ、抽出条件が表示されます。尚、表示される抽出条件は、あくまでも参考条件となりますので、スターティングポイントとして捉えて頂き、回収率が低い場合は試料及びターゲット化合物ごとに最適化が必要となります。

EMEのメリット

この新しい化合物抽出技術EMEは、既存の前処理方法であるLLE(液液抽出)やSPE(固相抽出)と比較し多くのメリットがあります。

1 サンプルクリーンアップから分析機器による分析用サンプル準備まで1ステップで迅速に完結

夾雑成分を多く含む生体試料や環境試料から分析対象化合物を1ステップで抽出できます。有機溶媒によるたんぱく質沈殿やリン脂質の除去プロセスが不要で、LLEやSPEで必要となる濃縮乾固や再溶解ステップもスキップでき、サンプルクリーンアップからLC-MSなどの分析機器による分析に適したサンプル準備まで一気通貫で完結できます。

2 マトリックスフリーの精製された抽出物を得られる

上記のEMEの抽出原理にあるように、EMEでは抽出条件を最適化することで、高レベルな選択的抽出が可能となり、たんぱく質・リン脂質・塩といったマトリックスが除去され、精製された純粋な抽出物が得られます。EMEを使用した生体試料からの化合物抽出の研究報告では、LC-MSの分析データがEMEのマトリックス効果に対して、非常に有効だと繰り返し証明されています。

3 濃縮装置としての役割

ドナー溶液の容量に対してアクセプター溶液の容量を意図的に少なくすることで、抽出と同時に濃縮が可能となります。再溶解する必要なく、そのままLC-MSなどの分析機器で分析できます。

4 グリーンケミストリーの推進

EMEで使用する有機溶媒の容量は、1サンプルあたりSLMを構築する際の10μl程度なので、既存のLLEやSPEと比較し、大幅に使用者の健康と環境にとって有害な有機溶媒使用量を削減できます。

5 非破壊の抽出

EMEの抽出原理は、溶液中のイオン化化合物を常温常圧下で電気化学的な移動により効率よく抽出し、濃縮まで完了します。したがって、既存の前処理工程のようにハイレベルなホモジェナイゼーションや高温・高圧での濃縮工程と異なり、化合物にとってマイルドなコンディションで分析用サンプルを準備できます。多数の研究報告からEMEによる化合物の分解や破壊が知見されたことはありません。

EMEは既存の前処理方法と異なり、前処理の全工程を1つの容器で完結する為、容器の入れ替えやエバポレーターによる突沸、濃縮乾固時の容器へ付着によるサンプルロスのリスクがゼロです。特に、容量の少ない希少サンプルから化合物抽出する際には、そのメリットが最大限に発揮されます。

7 前処理のストレスから解放

EMEを使用すると、これまで時間と労力が多大にかかっていた前処理工程を1ステップで完結することができます。また、各化合物ごとの条件設定の情報を誰でも簡単に検索できるデータベースが整っているので、EMEの条件設定に文献を調べたりする必要がなくなります。これまで、職人技だった前処理を標準化できます。

8 アナリティカルバリデーションに準拠

EMEによる再現性は高いことが証明されています。FDAやEMAが要求するアナリティカルバリデーションの水準にも準拠しています。ルーティーンとなっている既存の方法とEMEを比較検討した結果、分析データ的に既存の方法に劣る点は見当たらず、EMEのメリットが再確認されています。

9 カラムや分析機器を汚染しない。

EMEで得られる抽出物は、夾雑成分を完全に除去するためカラムや分析機器を汚染しません。高額なカラムの頻繁な取り換えや機器のメンテナンスコストやダウンタイムを減らし、分析業務や研究開発の効率化に貢献します。

EMEの有効性を示す研究文献及び化学的データ

  • 回収率 実際のデータ  <準備中>
  • たんぱく質及びリン脂質の同時除去 <準備中>
  • アナリティカルバリデーションに関する研究報告 <準備中>

EMEを使用する理由

EMEは夾雑成分の多い血液や体液といった生体試料や環境サンプルからイオン化化合物を抽出するのに最適です。

  • LLEやSPEでの抽出のように容器を入れ替える必要がありません。
  • 使用する有機溶媒は、数マイクロリットルのみで、グリーンケミストリーに貢献します。
  • 迅速な抽出を可能にします(3~15分)。
  • タンパク質やリン脂質を同時に完全に除去し、効率的なサンプルクリーンアップを実現します。
  • 高レベルの選択的抽出を可能にします。
  • クリーンな抽出ができる為、クロマトグラフィーによる分離を必要としません。
  • 抽出時に濃縮可能な為、濃縮及び再溶解をすることなく、そのまま抽出物を質量分析計で分析できます。
  • マトリックス効果フリーを可能にします。
  • 再現性の高い回収率を可能にし、分析バリデーションに準拠しています。
  • カラムや分析機器を汚染しません。
  • 汚染によるメンテナンス頻度を減らし、ダウンタイムや余計なコストを発生させません。
  • 分析担当者のストレスを軽減します。

EMEへの期待

EMEの導入が期待される分野として、臨床分野があります。

特に、操作がシンプルな為、臨床検査室の自動化に最適だと考えられています。

現在、臨床検査室では実に幅広いサンプル前処理装置や技術が使用されており、多くの分析化学者たちは、次にどんな技術が登場するのか待ち望んでいます。

彼らの多くは、下記のような疑問を抱えています。

自分が正しい技術を使っているのか、もっと良いやり方を探すべきなのか

「分析機器のメンテナンスコストを抑え、ダウンタイムを回避するために前処理後に分離カラムを使うべきか?」

「手間をかけず適当で楽な前処理をするか?」

「本当にこのマトリックスから分析対象物を100%抽出したのか?」

「分析結果は信用できるのか?この分析結果を誰かが生きるか死ぬかの判断材料として使えるのか?」

希釈をしただけの試料又は最小限の前処理を施した試料をカラムに直接注入すると、カラム寿命が大幅に縮み、質量分析計のメンテナンスコストが増加し、とダウンタイムが長くなってしてしまいます。

最も困難なマトリックス(夾雑成分)を含む生体試料から目的の化合物を100%抽出することは、簡単な課題ではありません。

多くの分析化学者が、前処理技術においてパラダイムシフトの必要性があることに同意しています。そして、業界最大手のプレイヤーたちは、そのメッセージを理解しており、この予測されるパラダイムシフトの責任者となるために、今後巨額の投資を行うことを決定しています。

EMEは、既存の煩雑な前処理方法とは一線を画した新たな技術でこのパラダイムシフトを牽引します。

EMEは、

  • どんな生体試料からでも1ステップで、迅速に100%クリーンな抽出を可能にします。
  • 貴重な試料は、破壊されず何度でも抽出できます。
  • 抽出物を高分解能質量分析計に直接注入できます。
  • EME抽出後に更なる利点がない限り、追加のクロマトグラフィー分離をする必要がありません。

EME関連文献リスト

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